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秘密のアイテム・ボールペン

エッセイ/原稿用紙7枚/2004.2.15


一本五千円でどうだ? 小学生の頃、江戸川乱歩の少年探偵団にあこがれていました。
 図書館にあった全集は、全て読みつぶしたもんでしたっけ……。

 ※

 当時の、多分テレビドラマだったと思う。

 正義の探偵とその少年助手が、怪人に拉致されてしまう。先に捕まったのが助手の方で、探偵は少年を救出しようとして、逆に捕らえられてしまったのだ。
 二人は怪人の部屋につれて来られ、怪人の高笑いを拝聴するはめになる。
 ところで少年は、時間的に早く捕まっていたので、不幸中の幸い、あるいは転んでもタダでは起きない精神で、探偵が来る前に、怪人の秘密を掴むことに成功していたのだ。
 その情報を目の前の先生(探偵)に伝えることができれば、一気に形勢が逆転する!
 ところが怪人の目があり、実行する手だてがない。それを喋って伝えようとしたら、ワンフレーズも言わない内に殺されてしまうだろう。
 ぐずぐずしていたら、二人とも別々にされてしまう。そうなったらお終いだ。今しかチャンスがないのだ。

 少年助手はどうしたか?

 少年は怪人に、両親宛に手紙を書かせてくれと懇願したのだ。
 先生は頼りにならない。お父さんお母さん、怪人の要求を聞き入れ、僕を助けてください。――そんな手紙を書かせてほしいと訴える。
 怪人は大喜び! さっそくその場で手紙を書くことを許可する。
 少年は手紙を書き始める。
 怪人が時折その文面を覗き込み、満足げに頷き、探偵を見やり、いやらしくフフフと笑うのだ。

 少年が手紙を書き終え、怪人に手渡そうとしたその時だった!

 いきなり少年が怪人にタックルをかまし――
 ダッシュしてきた探偵が怪人の背中のボタンを押し――!
 ――怪人は、動きを停止させてしまう。
 ……そう、怪人の弱点とは、背中のスイッチだったのである!
(注。ここんところは僕の創作である。実際はどうだったか、もう忘れちゃったよ……)
 かくて二人は脱出に成功し、悪は滅びる。正義が勝って、大団円になるわけである。

 めちゃめちゃな内容だったけど、僕はめちゃめちゃ面白かったな。

 ※

 ところで、少年は探偵にどうやって情報を伝えたのだろう?

 答は、モールス信号である。
 少年は手紙を書きながら、そのペンの上下する動きで、探偵に信号を送っていたのである。

 いや、かっこいい。スマートである。

 僕もやってみたい。……まあ、そうなるわけだ。
 ドラマでは普通のペンでモールス信号を作り出していたが、現実的には信頼性に欠ける。ちょっとした手のブレで、タイミングが崩れ、解読が非常に困難になってしまう。もっとはっきりと分かる方法が必要である。
 自分に信号を送っている意志があるときだけ相手にその信号が伝わり、それ以外の時は――普通に文章を書いているときだから――一見信号を送っているように見えるけど無視してもらってかまわない。そんな、魔法のように都合のいい物――すなわち。

 筆圧をかけると光り、力を抜くと消えるペンを作ろう!

 普段はまったく普通のペン。信号を送りたいときだけ、ぐっと押せばいいのである。点滅し始めたら、信号を送っているよ、ということになるのである。

 ※

 というわけで作ったのが、上のイラストの物である。
 材料は、透明プラスチックケースのノック式ボールペン。(バネがほしいのよ)
 麦電球。(細くなくては話にならぬ)
 ボタン電池、である。

 やってみればわかるが、実際の工作は簡単だった。生涯自慢できるほど、材料がぴったり組上がったのである。

 さっそく押してみる。ピカリと光る。
 手を戻す。バネでインク軸が押し戻され、接点が開き、消灯する。――うひょうひょ、カンゲキである。断言するが、僕の生涯の代表作品であろう。僕はこれを小学生の時に作ってしまったのだ。残りの人生は、もはや付録でしかない――。

 ※

 さっそく、少年助手に使っていただく。

助手:(先生、今から信号を送りますよ。ちゃんと受け取ってくださいね。ああ神様、どうかうまくいきますように!)「……ピカピカ、ピーカピーカ、ピカピカ……」
探偵&怪人:(同時に)「なにやってんだお前……ん?」(顔を見合わす)

僕:……


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