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マンガ雑誌のタダ読み法

エッセイ/原稿用紙11枚/2005.5.1


マンガ雑誌さて、マンガ雑誌である。
(お世話になりました。ありがとう。終わり。――終わってどうする!)

最初に書いとくが、僕はコレを立ち読みで済ますなんてコトをせず、きちんと買って読んでいたのだよ。
僕が選んだ雑誌にはちゃんと内容があるからにして、お金を払うことに別段、不満はなかったのだ。
当たり前のことであり、お金を払うことに疑問すら覚えなかったのでありました。
別の言い方をすると、お金を払うことは、どうにもしょうがないことであったわけだ……。

お金を払わない?
今まで払ったお金を取り戻す?

そんな意識なんか、当然、持ったことすらなかったのであります。ところが――
――ある日唐突に、「アンケートはがき」の存在に、気づいてしまったのです!

いや、そりゃ毎度毎度目にはしておりましたよ。ただ、それまでそのハガキの潜在力に、気がつかなかった、ということなんだわな……。

アンケートはがきには、次のようなことが書かれていました。

「このハガキを送ってくれた方の中から、抽選で
 一等・ン万円。一名様。
 二等・ン千円。数名様。
 三等・ン百円。十数名様。
……差し上げます」

雑誌代を浮かすウンヌンはとりあえずおいといて、僕は運が味方すれば現金を手にすることができるその可能性に、今更ながら気づいたのであります。
そして僕は当時(も今も)ビンボー人ではあったが、切手代くらいは出せたのである。
ほんでもってこのアンケートはがきちゅうものは、案外「穴」であり、けっこう当たりそうな予感がしたのでした。
というわけで、それ以来僕はセッセとハガキを出すようになったわけです。

さて――。
この段階で仮に当たったとしても、それをもってコレが「マンガ雑誌のタダ読み方法」だと、主張するつもりは毛頭ありません。
それは幸運な一時的な現象であり、雑誌代というよりは単純にお小遣いをゲットした、ただそーゆーことでしかないからです。
この話は、まだまだ続くのです……。


セッセとハガキを出すようになった僕ですが……それは最初はただただ現金がほしいという、欲がらみだったことを白状しておきます。

そのうちに――
だんだんとそのハガキの本来の目的である――
アンケートの方が――
おもしろくなってきたわけです。
なんたって一流のマンガ作家の先生方の作品に対して、それも正式に編集部に向かって堂々と、遠慮なく批評をぶっ書くことができるんですから!
そりゃあもう、調子に乗ってコキ下ろしましたわ……。

「午後3時のはずなのに、朝顔の花が咲き誇っているのはどういうわけだい? ああ〜ン?」
「“なまはげ”は青森じゃなくて、秋田ですぜ、センセ……」
「なんで車のドライバーが左の窓から顔を出しておしゃべりできるの?」
「あなた、上弦の月って、ホントはなんだか知らないんでしょ?」
「最低24キロはある重いカバンのはずなのに、イヤに軽そうだネ……」

いやもう、感想、批評と言うよりアラ探しでしたな。イヤな読者でした。
逆に、もちろん、よかったと思ったら褒めましたよ。

「何ページの何コマ目、ホント笑いました! 涙が出た!」
「この詩に痺れちゃいました! もうどうにでもして!」
「余りよくないと思いますけど、やっぱりいいと思います」(なんのこっちゃ)
「こういう理由で、この雑誌で、この作品がナンバーワンだと思う」

とにかく、良くも悪くも正直に思ったことを書きましたね……。
同時に、こちらのパーソナルデータも、偽りなく書きました。
「僕は某H県に住む×歳の男で、現在会社勤めをしていて、電話番号は何番だ。ヨロシク……」

これを、そう……、一年くらい、続けたわけです。

そしたら――
そしたらなんか、編集部に自分の名前を憶えられちゃったようなんですよ!
何気なく書いた一文が雑誌に載る、ということもちょくちょく起こるようになりました。
(掲載料としてテレカなんかいただきました。モチ憧れのセンセの作品テレカ!)
たしかに、名前を憶えられたようなのです――。

ああ……。
前フリが長くて申し訳ございませんでした。ようやく、ここからが本題です。

みなさん知らないと思いますけど、アンケートはがきの抽選には、ある迷信があるんです。
今から書くことに、僕は責任持ちません。あくまでウワサです。
そのウワサとは、以下のとおりです。

「一等は確かに厳正に抽選を行う。

 ……が、二等以下は、編集者のテゴコロが入る」

編集部にとってみれば、一見の客よりも、熱心な読者ちゃんに、当たってもらいたいようなんです。
そのキモチはヨクわかる。
もちろん、以上は無責任なウワサですけど……。

さあ、それでは僕は、どうなったでしょうか?

二等が当たりました!
ン千円です。これを計算すると、その雑誌半年分のお金になりました。
さて、半年後です。
ご想像つくと思います。また、二等が当たったわけです……。

長々とおつきあい下さいましてありがとう……。
注意深く読んでくださったらお分かりになっていただけると思いますが、結果的に、以上が、タダ読みのカラクリなのでした。

だまされた? なんか納得いかない?

……まあともかく、漫然と読み捨てるよりは、何かしら批評の気持ちを持って読んだ方が、断然おもしろいと思います。これは言えると思うよ。

参考になれば幸いです。

 ※

ちなみにその後、どうなったかというと……。

ある日突然、特別アンケートの依頼が来たわけです。分厚い郵便物で。

僕、俗物でしたな……。いきなりのVIP待遇に、すっかり舞い上がってしまいました。
バカなことに、権威ある批評家にでもなった気分でした。

僕、まだ人間が枯れてないから詳しくは書けないけど、自分の分を超えた、イヤらしい生意気な生臭い底の浅い幼稚な意見を、プロに向かって開陳しちまったわけです。
あとで、自分で自分がいやになりました。

こうした自分を編集部はどう思ったでしょうか?
案外、なんとも感じてなかったかも知れません。
けど、僕は自分の醜さが嫌でした。

それで、毎号の感想・批評を放棄してしまいました。
ハガキを出さなくなり、
当然、二等に当たることが無くなった、というわけです。

参考になれば幸いです。


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